財務・会計は、中小企業診断士試験の7科目の中でもっとも得点が安定しにくい科目です。令和7年度(2025年度)1次試験の科目別合格率を見ると、中小企業経営・政策が30.7%だったのに対し、財務・会計は8.4%と、7科目の中で突出して低くなっています。暗記でどうにかなる科目ではなく、経営分析やキャッシュフロー計算、意思決定会計といった計算問題を、手を動かして解けるかどうかがそのまま得点に直結する科目だからです。
財務・会計は「毎日触れる」ことでしか維持できない
私は3年間の受験期間を通じて、財務・会計と2次試験の事例IVには毎日必ず触れるようにしていました。理由は単純で、数日空けるとすぐに計算の勘が鈍るからです。企業経営理論や経営法務のような知識科目は、直前期に集中して詰め込んでも本試験までに間に合わせられますが、財務・会計は違います。経営分析の指標を覚えていても、実際に電卓や手計算で数字を出す動作を続けていないと、本試験の緊張状態では手が止まります。私自身、1年目の2次試験で事例IVが36点に終わったのは、まさにこの「触れ続ける」ことを怠った結果でした。
1次試験の模試では財務会計は68点を取れており、7科目の中では平均的な位置にありました。しかし1次で解ける計算問題と、2次の事例IVで求められる記述を伴う計算は難易度も形式も異なります。1次の財務会計を得点源にできても、2次の事例IVで同じようには通用しないという前提を持っておく必要があります。
2次試験の事例IVは、点数の乱高下が起きやすい

出典: 運営者提供(氏名・受験番号等はマスキング済み)
私の2次試験における事例IVの得点は、1年目36点、2年目69点、3年目59点と大きく上下しています。1年目は計算過程で止まってしまい、部分点すら拾えないまま時間切れになりました。2年目はTAC通学で演習量を増やし、事例IVの解き方を繰り返し解くことで69点まで伸びましたが、3年目はやや落ち着いて59点という結果です。この乱高下は、事例IVが「知識があれば解ける」科目ではなく、本試験当日の計算スピードと精神状態に強く左右される科目であることを示しています。
だからこそ、直前期だけ詰め込むのではなく、経営分析・損益分岐点・NPV・CVP分析といった頻出論点を、日々の演習の中でパターンとして体に染み込ませておくことが重要です。私が実際に繰り返し使ったのは、事例IVの全知識&全ノウハウとTACのスピード問題集、そして事例IVの解き方でした。同じ論点の問題でも出題の切り口が変わると解けなくなることが多いため、1冊を完璧にするより、複数の教材で同じ論点に何度も当たる方法を取っています。
| 年目 | 1次財務会計(模試) | 2次事例IV | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | ―― | 36点 | 計算問題で停止。足切りに近い水準 |
| 2年目 | ―― | 69点 | TAC通学で演習量を増加 |
| 3年目 | 68点 | 59点 | 日々の演習を継続 |
この表からわかるのは、演習量を増やせば必ず点数が上がるという単純な関係ではないということです。2年目に69点まで伸びた翌年、3年目は59点に落ちています。これは財務・会計と事例IVが、直前の詰め込みではなく日々の継続によって維持される科目である以上、その年の学習密度がそのまま点数に表れやすいことを示していると考えています。
経営分析の指標は「覚える」より「使い続ける」
財務・会計や事例IVで頻出する経営分析は、収益性・効率性・安全性という3つの視点から複数の指標を計算させる問題が中心です。指標の計算式そのものは一覧表にまとめれば誰でも覚えられますが、本試験で問われるのは「この会社の課題を表すのにどの指標を選ぶか」という判断です。私はこの判断力を養うために、模試や過去問で経営分析の問題に当たるたびに、なぜその指標が課題を表すのに適しているのかを一言でノートに書き出す作業を続けていました。
指標の暗記だけで止めてしまうと、本試験で数字は出せても、記述で問われたときに的外れな指標を選んでしまう失点につながります。
損益分岐点分析やNPV・CVP分析といった意思決定会計の分野も同様です。公式を覚えているだけでは、問題文の条件が少し変わっただけで手が止まります。同じ論点の問題を教材を変えて何度も解き直し、条件が変わっても計算の骨組みを崩さずに対応できるようにする反復が、事例IVのような記述を伴う計算問題への耐性を作ってくれました。
財務・会計が苦手な人ほど、後回しにしてはいけない
学習計画を立てるとき、苦手科目を後回しにして得意科目から手をつけたくなる気持ちはよくわかります。しかし財務・会計に関しては、この順番が逆効果になりやすいというのが実感です。苦手なまま放置すると計算の基礎動作そのものが身につかず、1次試験の得点源にできないだけでなく、2次試験の事例IVで致命的な失点につながります。財務・会計が苦手だと自覚しているなら、学習の初期段階から毎日短時間でも計算問題に触れる習慣を作り、他の科目より長い期間をかけて基礎を固めるべき科目だと考えてください。
1次試験全体の中で財務・会計をどう位置づけるかは中小企業診断士の試験科目一覧|7科目の特徴と攻略の優先順位で、暗記型の企業経営理論との対比は企業経営理論の勉強法|暗記より読解力が問われる科目で解説しています。1次試験の合格基準や科目合格制度を含めた全体像は中小企業診断士1次試験の完全ガイド|日程・合格基準・科目合格制度にまとめました。
電卓の使い方まで練習に含める
財務・会計と事例IVの対策では、電卓の操作そのものも練習の対象にしていました。本試験は時間との勝負であり、同じ計算式でも電卓の押し方に無駄があると数十秒単位でロスが生じます。GT機能やメモリー機能を使って途中式を保持したまま計算を進める操作に慣れておくと、複雑な意思決定会計の問題でも計算ミスと時間切れの両方を防ぎやすくなります。普段の演習から本試験で使う電卓を実際に使い、指が勝手に動くレベルまで操作を体に覚えさせておくことをおすすめします。
また、途中式を丁寧に書く習慣も本試験では重要です。最終的な答えが合っていなくても、計算過程が正しければ部分点が入る可能性があるため、日々の演習でも答えだけを出して終わらせず、途中式を省略せずに書く練習を続けていました。この積み重ねが、本試験の緊張状態でも手が止まりにくい土台になります。
2次試験対策とあわせて計算力を仕上げる
財務・会計の学習は1次対策だけで完結させず、2次試験の事例IVを見据えて進めることをおすすめします。2次試験対策全般の進め方は2次試験対策まとめに、3年間で使った教材と年ごとの戦略の全体像は中小企業診断士の勉強法|3年かけて合格した診断士の学習戦略にまとめています。学習時間をどう年単位で配分してきたかは中小企業診断士の勉強時間は1000時間?合格者3年間の実際の使い方をご覧ください。
独学で計算力を鍛える教材選びに迷う場合は独学完全ガイド、通信講座や予備校の演習量で比較したい場合は通信講座・予備校おすすめ比較を参考にしてください。私が実際に通学したTACの受講体験はTAC受講レビューにまとめています。
財務・会計を苦手なまま先送りにしてしまうと、1次試験だけでなく2次試験の事例IVでも足を引っ張られ続けることになります。逆にいえば、この科目にどれだけ早く手をつけ、どれだけ長く継続できるかが、3年、4年と受験が長引くかどうかの分かれ目になりやすい科目だというのが、3年間受験してきた実感です。
※試験情報は2026年7月時点の日本中小企業診断士協会連合会公表資料にもとづきます。