結論:免除は「使える権利」であって「使うべき権利」ではありません
中小企業診断士1次試験には2種類の科目免除があります。科目合格による免除と、他資格等保有による免除です。どちらも申請すれば認められますが、免除された科目は合否判定の対象外になります。ここに落とし穴があります。
1次試験の合格基準は「総点数の60%以上、かつ40%未満の科目がないこと」です。7科目なら420点/700点。免除を使うと分母が減るので、残った科目で60%を取らなければならなくなります。得意科目を免除すると、その科目で稼ぐはずだった貯金が消えます。
私は3年目に1次を7科目すべて受け直しました。免除は一切使っていません。その年の模試は7科目合計487点で、企業経営理論82点という貯金があったから、中小企業経営・政策63点を吸収できたという構造でした。この記事では、制度の正確なルールと、免除を使うべきかの判断基準を分けて整理します。
制度①:科目合格による免除
1次試験は科目単位で合否が出ます。総合不合格でも、60点以上を取った科目は「科目合格」として2年間有効です。
| 項目 | ルール |
|---|---|
| 有効期間 | 科目合格した年度の翌年度・翌々年度の2年間 |
| 令和8年度に使えるもの | 令和7年度または令和6年度の科目合格のみ。令和5年度以前は不可 |
| 申請方法 | Web申込システムで、科目合格時の受験番号を入力する |
| 必要書類 | なし。ただし受験番号が必要 |
| 申請しなかった場合 | 免除されない。その科目を受験することになる |
| 1次に合格した場合 | それまでの科目合格による免除申請資格は消滅する |
特に重要なのが最後の2行です。免除は自動ではありません。申請しなければ、去年60点を取った科目でも今年また受けることになります。逆に言えば、「今年は点が取れそうだから、あえて免除せずに受けて貯金を作る」という選択が制度上できます。
もうひとつ、受験番号を忘れると詰みます。協会連合会は電話では受験番号を教えません。所定の様式による郵送照会が必要で、回答も郵送です。申込期間は例年1か月強しかないので、科目合格した年の受験票は必ず保管してください。
制度②:他資格等保有による免除

出典: 一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「令和8年度中小企業診断士第1次試験案内」
特定の資格や職歴があると、対応する科目が免除されます。令和8年度試験案内に記載された対象は次のとおりです。
| 免除される科目 | 対象となる資格・経歴 |
|---|---|
| 経済学・経済政策 | 大学等の経済学の教授・准教授(通算3年以上)/経済学博士/公認会計士試験で経済学を受験して合格した者 |
| 財務・会計 | 公認会計士、公認会計士試験合格者、会計士補等/税理士、税理士試験合格者・免除者/不動産鑑定士、同試験合格者、不動産鑑定士補 |
| 経営法務 | 弁護士、司法試験合格者、旧司法試験第2次試験合格者 |
| 経営情報システム | 技術士(情報工学部門)/情報処理技術者試験の一定区分の合格者 |
| 企業経営理論・運営管理・中小企業経営・政策 | 他資格による免除の対象なし |
経営情報システムの対象となる情報処理技術者試験の区分は、ITストラテジスト、システムアーキテクト、応用情報技術者、システムアナリスト、アプリケーションエンジニア、システム監査、プロジェクトマネージャ、ソフトウェア開発、第1種、情報処理システム監査、特種です。
ここで注意すべきは、基本情報技術者は含まれていないことです。応用情報技術者からが対象になります。また日商簿記は1級でも財務・会計の免除対象ではありません。この2点は誤解が非常に多いところです。
申請の実務:ここで落ちる人がいます
他資格による免除は、科目合格による免除より手続きが重くなります。
| 手順 | 内容と落とし穴 |
|---|---|
| 1. 事由を選択 | Web申込システムで免除事由を選ぶ。選んだだけでは免除にならない |
| 2. 証明書類をアップロード | 3,000KB以内、拡張子は.jpg / .jpeg / .pdf のみ。郵送・持参は受け付けられない |
| 3. 判読可能か確認 | 画像が読めない、ファイルが開けない場合は申請が認められない |
| 4. 氏名の一致 | 申込時の氏名と証明書類の氏名が違うと同一人物と見なされない。改姓した場合は再発行か戸籍抄本の郵送が必要 |
| 5. 結果の確認 | 免除申請の可否は受験票・写真票に記載される |
申請は受験申込期間内に完結させる必要があります。令和8年度なら4月23日〜5月27日です。証明書類の再発行が必要になると数週間かかることもあるため、免除を使うつもりなら、申込開始前に書類を手元に用意しておくべきです。詳しい日程は令和8年度の試験日程にまとめています。
本題:免除は使うべきか
ここからが判断です。免除には「時間が浮く」というメリットと、「得点の貯金を失う」というデメリットがあります。どちらが大きいかは科目によって違います。
判断の基準はひとつだけです。その科目で60点を大きく超えられるかどうか。
| 状況 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| その科目で70〜80点が見込める | 免除しない | 10〜20点の貯金は、他科目の不作を吸収する保険になる |
| 60点前後がやっとで、他に不安科目が3つ以上ある | 免除する | 浮いた時間を不安科目に回したほうが総合点は伸びる |
| 資格を取ってから5年以上経ち、知識が抜けている | 免除する | 再習得コストが「新規科目1つ」とほぼ同じになる |
| 科目合格の有効期限が今年で切れる | 状況次第 | 免除して他に集中するか、受けて貯金を作るかを模試の点で決める |
私が7科目を受け直したのは、企業経営理論と経営情報システムで貯金が作れる見込みがあったからです。模試の科目別は次のとおりでした。
| 科目 | 模試の得点 | 60点との差 |
|---|---|---|
| 企業経営理論 | 82点 | +22 |
| 経営情報システム | 72点 | +12 |
| 運営管理 | 70点 | +10 |
| 財務・会計 | 68点 | +8 |
| 経営法務 | 68点 | +8 |
| 経済学・経済政策 | 64点 | +4 |
| 中小企業経営・政策 | 63点 | +3 |
| 合計 | 487点 | 合格ライン420点に対し+67 |
この年、合格ラインに対する余裕67点のうち、上位2科目だけで34点を作っています。もし企業経営理論を免除できる立場だったとして免除していたら、残り6科目で360点が必要になり、余裕は405-360=45点に縮んでいました。貯金科目を手放すというのは、そういう意味です。
足切りとの関係:免除は足切りリスクを減らす
一方で、免除にははっきりしたメリットもあります。科目が減れば、40点未満で足切りになる機会も減ります。
1次試験は総点60%以上でも、1科目でも40%未満があれば不合格です。7科目のうち1つでも事故が起きればアウトという構造は、科目数が多いほど不利です。経営法務や経営情報システムのように年度による難易度差が大きい科目を免除できるなら、「取りこぼしのくじ引き」を1回減らせることになります。
特に経営法務は、私の見立てでは7科目で最も足切りリスクが高い科目です。弁護士資格などで正当に免除できるなら、その効果は得点以上に大きいと考えます。
科目免除に関する誤解を3つ
誤解1:診断士に合格すると他の試験でも免除がある
逆方向はほとんどありません。中小企業診断士の資格は、税理士試験の受験資格にも、社労士試験の科目免除にもなりません。税理士との比較で整理したとおり、この非対称性は制度設計上のものです。
誤解2:免除申請すると不利に扱われる
そのような事実はありません。免除は試験案内に明記された正規の制度です。免除科目は合否判定の対象外になるだけで、それ以外の不利益はありません。
誤解3:科目合格は永久に有効
2年で切れます。しかも1次に合格した時点で、それまでの科目合格による免除申請資格は消滅します。2次に2年連続で落ちて1次から受け直すことになった場合、以前の科目合格は使えません。私が3年目に7科目を受け直したのはこの理由です。
まとめ
| 論点 | 結論 |
|---|---|
| 免除の基本方針 | 得意科目は免除しない。苦手科目を免除できるなら使う |
| 判断の基準 | 模試などでその科目が70点を超えるかどうか |
| 科目合格の期限 | 翌年度・翌々年度の2年間。令和5年度以前は使えない |
| 手続き | 申請しなければ免除されない。他資格免除は証明書類のアップロードが必須 |
| 簿記1級 | 財務・会計の免除対象ではない |
| 基本情報技術者 | 経営情報システムの免除対象ではない(応用情報から) |
免除は時間を買う制度です。買った時間を何に投じるかを決めないまま免除するのは、ただ持ち点を減らしているだけになります。免除で浮いた時間の行き先を先に決めてから申請してください。
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出典:一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会「令和8年度中小企業診断士第1次試験案内」(免除制度・対象資格・申請手続き)。模試得点は運営者本人の実データです。免除対象資格や手続きは年度により改定される場合があるため、出願前に最新の試験案内で確認してください。